
「Especially 〜特別、とりわけ、格別に〜」。
このタイトルは、越野景子のピアノをもっともよくあらわしたひとことだ。
北海道の留萌出身、ソロ・デビューして10年あまりを経た彼女が初めてリリースしたアルバムには、ショパンの「幻想即興曲」をはじめ、リストの「ラ・カンパネラ」、ラフマニノフの「鐘」など、おなじみの作品が並んでいる。だが、越野景子はこれらの曲を、決してありきたりのレパートリーとは考えていない。それがわかるのは、出来上がった曲がどれも、まるで初めて聴くような新鮮な美しさにあふれているからだ。それぞれの曲に真摯に、愛をもって向き合っていなければ、こういう音楽は生まれない。このアルバムからは、越野景子というピアニストの音楽に対する「特別」な思いを聴くことができるのである。
表面的な華やかさがもてはやされがちな最近のクラシック界にあって、こうした丁寧な音楽に出会えることほど嬉しいことはない。越野景子にはそのピアノの音色のように、ピュアでありながら根っこのしっかりした演奏を、これからも続けていってほしい。タイトルには「ピアノ・アルバムVol.1」の文字が刻まれている。彼女の次の「特別」な音楽が楽しみだ。
室田尚子(音楽ライター)
